網走文学散歩

1.天都山からの眺望
2.網走の印象は網走湖から始まる
3.文学作品の中の網走刑務所
4.終着網走駅の風景
5.懐かしい網走港と魚市場の風景
6.モヨロ貝塚とオホーツク海
7.網走の印象と街の描写
8.日本一雄大と書かれた能取岬
9.推理小説で描かれた網走
10.流氷の海に魅了される作家たち

  

  


峰隆一郎の
『特急オホーツクさいはての女』

 

 


『知床岬殺人事件』木谷恭介

 

 


『知床温泉殺人事件』吉村達也

 

 


『網走発急行「大雪」20分の罠』峰隆一郎と
西村京太郎の『釧路・網走殺人ルート』

 

  9.推理小説で描かれた網走

『網走発遥かなり』(島田荘司・昭和64)

 昭和二十年(一九四五)に湧網線(旧国鉄線・昭和62廃線)で起こった殺人事件のなぞが、四十年ぶりに解明される話だ。物語に幾重もの仕掛けがあり、作者の本格ミステリーといわれる作品である。
 「私」はオホーツク3号で網走駅に到着し、湧網線に乗り換え、サロマ湖岸の芭露まで行く間の待ち時間に、網走の街に出る。
   『私はさっそく網走の街へ出た。出てみて驚いたことに、ずいぶん有名な街なのに、旭川などよりずっと小さい。駅前に大きなビルが一つあるが、見渡す限り、喫茶店やレストランの類いは、そのビルの二階に入った、軽食・喫茶と看板の出ている店が一軒だけらしかった。
 駅前を二、三分も歩くとすぐ川にぶつかった。人に尋ねると、この川に沿って左に行けば有名な網走刑務所があり、右へ行けば繁華街があるのだという』

『特急オホーツクさいはての女』(峰隆一郎・平7 )

 特急オホーツク10号で若い女の刺殺死体が発見される。警備会社の調査員が網走へやって来る。
   『――網走川に架かる網走橋の中ほどで足を止める。川を眺める。北海道の川らしく、芒洋としている。時の流れがゆるやかになったようだ。この橋からオホーツク海は、すぐ近くだ』
 という程度に網走が描写されている。

『知床岬殺人事件』木谷恭介(平成7 )

 この小説の知床は羅臼側である。休暇を過ごすため知床岬を訪れた愛知県警の刑事は、殺人事件に巻き込まれる。そして網走にも足を踏み入れる。
   『網走から釧路へ向かった。網走刑務所のまえは観光客でごった返していたが、川をへだてた対岸にあるレンガ造りの厳めしい門を横目にとおり過ぎた。右手を流れる川は、いつとはなく湖の様子を見せ始めたが、それも目に入らなかった』
 刑事はオートバイに乗っての旅なのである。

『知床温泉殺人事件』吉村達也(平成7 )

 「知床流氷観光の旅」の二泊三日のツアーコースで事件が起きる。知床のウトロから網走に来たバスの一行は、観光砕氷船おーろらに乗船する。その時、女性客の一人が氷海に転落して死亡するのだ。
   『「流氷観光砕氷船のりば おーろらターミナル」と看板の掲げられた建物は、ずいぶん簡素なものだったが、おーろら号そのものは、なかなかきれいな船だった。――海面は、心なしか、とろりとしたシャーベット状になってきていた。海の表面が曇った感じになっていて、おーろら号がかき立てる波も白く泡立たずに、まるでポタージュスープを揺すっているような、丸みをおびたうねりを作っている』

『網走発急行「大雪」20分の罠』峰隆一郎(昭64)

 網走の街のいろいろな場所が実名で出てくる。「ホテル美園」「谷やん」「向陽ヶ丘」「厚生病院」「桂ヶ丘チャシ」「郷土博物館」「能取湖」などなどだ。

『網走――東京殺人カルテ』(由良三郎・平2 )

 ここには網走刑務所が登場する。模範囚が刑務所を出ずに復讐の殺人をするというミステリーである。

『知床岬に夏は死ぬ』辻真先(平2 )

 これには、北浜駅と喫茶店「停車場」が出てくる。同じ辻真先の「幻の流氷特急殺人事件」(昭61)には、流氷鳴りが描写されている。

西村京太郎の『釧路・網走殺人ルート』(昭63)

 横領の男をおなじみの十津川警部が追うというミステリーである。古谷が網走へ逃亡してくる。
   『――網走駅におり、改札口を出て見ると、柔らかな秋の陽射しのせいもあってか、網走の町は、健康で、明るかった』
 網走が登場する推理小説は、ここに上げたものだけでなく、まだまだ多くあるだろう。作品によっては、網走の説明や描写が安易で、間違いも見受けられる。そしていずれも、東京からやって来た者が、網走で死体となって発見されるなどというパターンが多い。殺人とか逃亡などの舞台はオホーツクに限るというのか。そこにも最果てイメージが一人歩きしているのではないか。


つづく

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